最新研究レポート
電磁界シミュレーションのための人体モデリング技術の開発(2016年度)
研究担当者: 竹内侑里
~はじめに~
近年ウェアラブル端末をはじめとする人体センシングが注目されている。これらのデバイスの設計高度化には、人体の電磁界シミュレーション技術の確立が必須である。本研究では、限られた計算リソース環境において人体の電磁界シミュレーションを行う手法を開発した。また、本手法を「居眠り運転防止装置」に適用した事例について紹介する。
近年ウェアラブル端末をはじめとする人体センシングが注目されている。これらのデバイスの設計高度化には、人体の電磁界シミュレーション技術の確立が必須である。本研究では、限られた計算リソース環境において人体の電磁界シミュレーションを行う手法を開発した。また、本手法を「居眠り運転防止装置」に適用した事例について紹介する。
電磁界シミュレーションに必要な要素は3つあり、それぞれを作成してFemtetに取り込み解析を行った。しかし、解析の際に人体モデルで問題が発生したので問題解決のため人体モデルの修正方法を検討した。
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人体形状の取り込み方法の比較
3Dモデリングソフトを使い人体モデル修正方法を4つ検討した。方法A、Bについては面の干渉により解析不可能であったが、方法C、Dでは解析に成功することが出来た。
電界分布の解析結果
人体の均質化モデルを用いた心臓活動電位における個体差の要因分析(2017年度)
研究担当者: 石塚舜典.
~はじめに~
2016年度の研究成果を基に居眠り運転防止装置における人体の電界シミュレーション技術の向上を図るため、人体構造に着目した人体の電界シミュレーション技術の研究を行った。本研究では居眠り運転防止装置における心電図検出方式の課題解決のために人体の均質化モデルを用いた電界シミュレーションによる要因分析を行った。
居眠り運転防止装置における心電図検出課題
現在、感覚生理及び電磁気応用研究室が共同で研究を進めている心電図波形検出型の居眠り運転防止装置は「被験者から測定される心電図波形に個体差が存在する」という課題を抱えている。本来、正常な心電図波形として右図(上)の様な心電図波形が測定される一方で右図(下)の様な異常な心電図波形が測定されるケースも確認されており、実用化に伴い問題となっている。
一般に心電図波形は心臓が発するP波、Q波、R波、S波、T波の5種類の活動電位(心臓活動電位)によって形成されることが知られている。これら心臓活動電位が人体から何らかの影響を受け、異常な心電図波形が測定されるのではないかと考え、人体構造の個体差と心臓活動電位の関係について人体の電界シミュレーションを用いた要因分析を行った。
人体構造の個体差
人体モデルのベンチマーク
人体の電界シミュレーションを行う上でシミュレーション結果に大きく影響を与える要因に人体モデル要素が挙げられる。人体モデルはその用途により様々な特徴を有しており、解析環境や用途、計算時間等に合わせた適切なモデルを選択する必要がある。そこで、本研究では4つの人体モデルについてベンチマークを行い、本研究における適切な人体モデルとして産業技術総合研究所が研究開発を行うDhaibaWorks人体モデルを人体の電界シミュレーションに適用した。
人体の均質化モデル
本研究で採用した人体モデルであるDhaibaWorks表皮モデルは身長・体重を設定するだけで任意の体型生成が可能なポージング可能な人体モデルである。モデルは表面メッシュのみで構成されている一様媒質モデル(1種類の電気特性を有するモデル)であり、人体組織(筋肉、脂肪、骨、etc)モデルは用意されていない。そのため、体脂肪等の人体組織を考慮した人体の電界シミュレーションを行う事が不可能である。そこで本研究では電界シミュレーションを行う人体モデルに設定する電気特性に対して均質化法を適用した。本研究における均質化法とは「複数の材質で構成される物質の電気特性値を各材質の重量比によって1種類の材質に代表する近似手法」のことを指す。
心臓活動電位モデル及び検出電圧
人体の電界シミュレーションを用いた人体構造と心臓活動電位の関係について要因分析を行う上で心臓活動電位のモデリングは2016年度と同様に2枚の電極を用いて簡易的に行った。但し、心臓活動電位の発生原理や心電図波形測定原理を参考に傾きを考慮したモデリングを行い、実際の居眠り運転防止装置を想定した電界シミュレーションを行った。2点間の電圧(検出電圧)の変化を確認することで人体構造の個体差が与える影響を確認した。
体脂肪率の個体差が検出電圧に与える影響
人体モデルに設定する電気特性を先に述べた均質化法を適用し、筋肉と脂肪の2種類の人体組織で構成される人体モデルの電界シミュレーションを行った結果、体脂肪率の変化により電気特性値が変化したにも関わらず、検出電圧の変化は殆ど確認できなかった。これは人体モデルを下図の様な等価回路で考えた場合、均質化法を適用した結果インピーダンス比が変化せず、検出電圧に影響を与えなかったものと考えられる。
体型の個体差が検出電圧に与える影響
人体モデルに設定する電気特性値を固定し、身長・体重で変化する体型を痩身、軽痩身、標準、軽肥満、肥満の5段階に分類し各体型における検出電圧の変化を電界シミュレーションにより確認した結果、肥満体型である程、検出電圧は低くなった。これは人体モデルが誘電体として働いたことによる、電気力線の変化が与えた影響であると考えられる。
心臓活動電位の個体差が検出電圧に与える影響
人体モデルに設定する電気特性値及び体型を固定し、心臓活動電位モデル(2枚の電極)の位置を下図のように変化させ、人体の電界シミュレーションを行った結果、その位置によって検出電圧の値は変化した。
人体モデルに設定する電気特性値及び体型を固定し、心臓活動電位モデル(2枚の電極)の傾きを下図のように変化させ、人体の電界シミュレーションを行った結果、その傾き(心臓活動電位方向)によって検出電圧の値は変化した。
まとめ
人体の均質化モデルを用いた人体の電界シミュレーションを行った結果、(i)体脂肪率の個体差は電気特性値が変化するにも関わらず検出電圧に与える影響は殆ど無いという見解を得た。この結果の妥当性を判断するためにも人体組織がより詳細に再現された人体モデル及び実測との比較検証が必要である。(ii)体型の個体差は肥満多形である程、検出電圧を低く測定させる様な影響を与えるという見解を得ることが出来た。また、(iii)心臓活動電位の位置や傾きによっても、検出電圧に影響を与え得る可能性があることが考えられる。これらの個体差の要因分析に対しても、実際に有り得る個体差データを考慮した、より詳細なシミュレーションを進めていく。